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2012-03-08 娚の一生 [2次元@アニメ/コミックス感想]

小説、新書、文芸、雑誌、参考書など多種多様なコーナがある書店の中で、これまで一番立ち寄りづらかったのが少女コミックスのコーナーでした。同じコミックスというカテゴリーながらそこに「少女」という冠が付くことで途端に別世界に感じる不思議。本来漫画のおもしろさに「男子」「女子」という括りはありません。面白いモノは連載されるというのは「バクマン」における佐々木編集長の言葉ですが、面白い作品は男女に関係なく読まれるのが道理。表向きには男子向けであろうが、女子向けであろうが面白いモノは面白いのです。ならば「少女」コミックスのコーナに立ち寄り、至極の名作に手を伸ばすのは一漫画好きとしての使命でもあります。
しかし難しい。なぜか。

コミックスは手に取った作品によって「嗜好」、「嗜癖」、「偏愛」と言ったモノを他者から簡単に悟られてしまうものです。一見すると作品の内容が分からない小説の表紙などに比べて、コミックスの表紙は描かれた絵の傾向によってある程度その人の好みを推測することが可能です。それが故に書店においては他者の手にしたコミックスについて見てみないフリをするというのが暗黙の了解でした。少年がきわどい青年向けのコミックスに手を伸ばしても我々は目を伏せ、我々が腰を屈め少年向けコミックスを手にしても彼らは否とは声に出さない。お互い向けるべき視線は横ではく正面の本棚。それが書店におけるルールです。

しかし、これは「男子」の中に敷かれたルールです。たとえ同様のルールが「少女」側にあったとしても、それを知る術は男子にない。知らない、分からないというのはある種の恐怖であり、少女コミックスを手にした瞬間、そばにいる少女達に「視られて」いるのではないかと感じてしまう「自意識」が少女コミックスを手にすることの難しさになっています。それはただの自意識過剰だよ、と笑えるようになったのは変態紳士として成長した30代になってから。それまではどうしても躊躇せざるを得なかった。

とまあ、相変わらず長い上に中身のない前置きを述べたところで、本日は女性向けコミックスから『娚の一生』の紹介を。インターネットによる流通革命により男子でも女子の視線を気にせず少女コミックスを購入できるようになりました。書店で購入を躊躇われている方にはネットでの通販もありだと思います。

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)

  • 作者: 西 炯子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/03/10
  • メディア: コミック


タイトルですが『甥の一生』ではなく、『娚の一生』です。鞄と靴並みに似ていますので注文される場合は注意が必要です。といってもAMAZONでは『甥の一生』でも検索できるんですけどね。アフェっぽいですね。まあ、アフェなんですが。

さて、内容をざっと紹介すると、30代半ばの「つぐみ」さんが主人公です。キャリアウーマンで美女。しかし不器用な性格が災いして独身。人生に疲れてしまった彼女は祖母の遺産として継いだ田舎の一軒家であえて孤独な生活を望みます。しかしそれは突然現れた謎の男によって乱されます。飄々とした男によってなし崩し的に同棲を開始した彼女。男は祖母の元愛人なのではないかという疑惑もあり、波乱含みの未来を予感させます。しかし翻弄されつつも、どこか憎めないその男に次第に心が惹かれていきます。
・・・・これだけですとさほど印象に残らない恋愛モノにも感じますが、驚くべきはその男の設定。

なんと50代の白髪のおっさんでございます。

うん。すごいぜ女性コミックス。恋愛漫画の一つの到達点を視たと言っても過言ではありません。世の中にはおっさんスキーな人がいるとは聞いておりましたが、まさか50代の男性を恋愛対象とした漫画が存在するとは思いませんでした。

しかも特殊な性向をターゲットにした変わり種と言うには早計で、このおっさん、一般的な恋愛対象になるキャラとして成立しているんですよちゃんと。50代の男のイメージというと包容力はあるが、生臭い島耕作的なイメージか、あるいは家庭と仕事に疲弊した男のイメージが強いですよね。ところが、この作品のおっさんはどこか浮世離れしたファンタジックな雰囲気を醸し出しており、「生臭さ」も「哀愁」もほとんど感じないのです。白髪で、ほうれい線があり、首筋に至っては張りの欠片もない。それだけだとただの枯れたおっさんです。しかし切れ長の瞳は淀みがなく理知的で、タバコを挟む指は長くしなやかでセクシー。性格は冷淡なようで実は少年的な熱い気質も持ち合わせており、また関西弁のせいか説教臭い台詞を口にしても妙に愛嬌があります。全体として若くはないが、男としての魅力は今なお健在といったキャラに仕上がってます。あ、あとツンデレだし。むしろ「生臭さ」と「哀愁」を漂わせて老成しつつあるのは、女性であるつぐみさん側だったりします。

この作者の巧みなキャラ造形によって読者は主人公つぐみさんととおっさんの歳の差についてあまり気にならなくなってしまうのです。いや、歳の差は気になってもそれを上回る魅力によって許容してしまうのです。

さて、あまりおっさんの魅力について語ってもなんですのでここからは変態紳士としての感想を。

まずは主人公のつぐみさんですが、エロイです。悶絶すること間違いなし。
長い黒髪を後ろに纏めているつぐみさん。その黒髪を纏めるバレッタやシュシュがころころと変わるのがエロイ。男性漫画ではポニーテールやツインテールなど髪型に重点を置くわりにはあまりこの辺りの小道具に気を使っていない。しかし、この小道具が女性の生活感をより際だたせており、それを垣間見られることに背徳的な気分に浸れることができます。次にエロイのがその表情。内面の葛藤を押し殺した時の井戸の底のような近寄りがたい瞳も、感情を露わにしたときの愛らしい丸い瞳も素晴らしく、そしてなにより寝起きの気怠い表情が絶品です。これだけご飯三杯はいけるほどエロイです。
そして最後にプレイがエロイ。直接的描写は少ないもののおっさんの変態チックなプレイを許容してくれる懐の広さに感動。気を許した男に示すその態度はやけにリアリティがあって本当にエロイ。できればキャプチャして紹介したいところですが、漫画のスキャンが不慣れなので割愛致します。と言うよりもコレはモニタではなく、実際に手に取って観た方が感慨深いです。興味のある方はぜひ購読して堪能して頂きたい。

無論エロイだけではなく内容もすばらしい。
本作品は単純な歳の差がテーマの恋愛話ではなく、結婚、そして女の幸せとはなんぞやというのがテーマになります。つぐみさんは誰よりも運命を信じ、「幸せ」になりたいと夢見る少女でした。しかし現実においてそれを強く念じるあまり捻れてしまい、結果的に最も幸せから縁遠いところいました。が、おっさんと出会った事により本当の幸せに気付かされます。それは皮肉にも「幸せ」という概念に縛られないこと。タイトルの『娚』は(おとこ)とキャプションされていますが、本来の読みは(めおと)になります。幸せになりたいから恋愛していたつぐみさんは、おっさんと自然体で暮らす事でようやく安寧を得ます。それがすなわち幸せだと気付くのでした。基本的にはモノローグなどで素直な心境を吐くため、女性心理について男性にも分かり易く、つぐみさんを純粋に応援したくなります。エピソードも豊富で、少女的な気質、大人の風格、母性的な一面と色々なつぐみさんの良さを堪能できます。

読後感もさわやかで、男性でも楽しめる「娚の一生」これからも少女コミックスコーナに出没しなければと思う良作でした。

同じ作者で購読したのは以下の2作品。まったく毛色の違う2作ですが、それぞれ興味深い。完結したらまた紹介したいと思います。

メガネの篠原晶が腐女子かわいい。「恋と軍艦」

恋と軍艦(1) (講談社コミックスなかよし)

恋と軍艦(1) (講談社コミックスなかよし)

  • 作者: 西 炯子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/05
  • メディア: コミック



主人公岩谷ヨリが老眼鏡カワイイ。「姉の結婚」

姉の結婚 1 (フラワーコミックス)

姉の結婚 1 (フラワーコミックス)

  • 作者: 西 炯子
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2011/05/10
  • メディア: コミック


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