2012-11-14 読書感想「儚い羊たちの祝宴」 [1次元@読書感想]
夕されば、門田の稲葉、おとづれて、芦のまろやに、秋風ぞ吹く。
夕暮れ時。校門(門田)から出でて、帰宅を急ぐ女子高生たち。冷たい秋風が吹く中でも、短いスカートをなびかせてまろやかな足(芦)をさらけ出す彼女たちは我が国の宝である。という源経信の歌です。ちなみに「稲葉」とは、もともと「稲葉天目」と呼ばれている国宝の茶碗の事でして、女子高生の足をストレートに「国宝」とは歌わずにあえて「稲葉」と表現しているあたり、流石は和歌に秀でた者の称号である「三船の才」と呼ばれた源経信らしい歌だと感じます。なにより千年前もの昔から女子高生が最高と断言しているのがスゴい。
さて、嘘八百はこれぐらいにして、秋といえば、食欲の秋、芸術の秋、そして読書の秋と言いますね。日が沈むのが早く、夜が長い秋。静かに読書をして過ごすには最適な季節というわけです。というわけで、久しぶりに本日は読書感想でも。
今回の読書感想はこちらの小説、米澤穂信著「儚い羊たちの祝宴」です。書店で見かけ「味わえ絶対零度の恐怖をーラストの一行で世界が反転」という本の帯の煽り文句に釣られて購読しました。
本作は五つの短編で構成されています。以下ざっとしたストーリを紹介すると、
地方の名家で起きる惨劇を、使用人の少女の手記という形で語る『身内に不幸がありまして』富豪の家に使用人として住むことになった妾の娘と別館に幽閉された兄との奇妙な生活を語る『北の館の罪人』山奥の別荘の管理を任された使用人が歪な矜持を語る『山荘秘聞』名家の次代当主として育てられた娘とその忠実な使用人との絆を語る『玉野五十鈴の誉れ』そして、成金のお嬢様がお抱えの料理人に恐ろしいオーダーを持ちかける『儚い羊たちの祝宴』って感じの五編です。
上流階級のご令嬢、あるいは使用人(メイド)が上品な語り口で綴る五つの物語。それぞれの物語の最後に小さな驚きを秘めたミステリー短編として楽しめる一方で、この五つの短編を「章」として捉え、表題にもなっている『儚い羊たちの祝宴』を最終章と位置づけて読むと、それまでとはまた違った趣きが生じるという秀逸な構成になっています。全てを読み終え、本を閉じた際にこの作品のジャンルが「ミステリー小説」ではなく、「ホラー小説」だったのではないか?と読者に錯覚させるような仕組みが用意されており、深読みしようと思えばいくらでも深読みできる。一粒で二度、三度美味しい小説となっております。
なお、自分はこの作品について「ミステリー小説」とも「ホラー小説」とも思っておらず、作中作というか、『お嬢様たちが創りだした五つの物語』つまりはお嬢様たちの『同人誌』というスタンスの作品なのではないかと思っています。
各話のスタイルがバラバラで手記形式だったり、回顧形式だったり、日記形式だったりするのですが、これは作中で随所に言及される読書サークル「バベルの会」のお嬢様達が読書したり、その内容を語り合ったりするだけでは飽きたらず、各々が抱いていた夢想の内容を物語として書き上げたものであると考えると、しっくりくるんですよね。家名や社会的地位に縛られ、「お嬢様」らしくと、完璧な立ち振る舞いを演じざるをえない少女たち。清楚であれ、可憐であれと型に押し込められ汲々となっている彼女たちは慎み深い外面とは別に内心では残酷で嗜虐的でグロテスク物語を夢想していた。
高値の花とは身分が違いすぎて、ただ遠くから眺めることしかできないという、上流階級のお嬢様を指す言葉ですが、高山の岩間に咲く花は厳しく辛い環境で、それでも健気に咲くあだ花でもあるわけです。自由なんぞ皆無。人格さえも家の意思によって決められる。そんな苦しい立場の彼女達のささやかな反抗がこの五つの物語だとして読むと、個人的にはスゴく萌えます。ブヒ-。
というわけで、リアリティの無い浮世離れしたした五つの物語の後ろに妙にリアリティのあるお嬢様たちの息づかいを感じる不思議な作品、『儚い羊たちの祝宴』の感想でした。結局最後まで、帯の文句である「絶対零度」について良く分かりませんでしたが、とにかくお勧めしたい一品ですので、ぜひ秋の宵の口に一読してみてください。
夕暮れ時。校門(門田)から出でて、帰宅を急ぐ女子高生たち。冷たい秋風が吹く中でも、短いスカートをなびかせてまろやかな足(芦)をさらけ出す彼女たちは我が国の宝である。という源経信の歌です。ちなみに「稲葉」とは、もともと「稲葉天目」と呼ばれている国宝の茶碗の事でして、女子高生の足をストレートに「国宝」とは歌わずにあえて「稲葉」と表現しているあたり、流石は和歌に秀でた者の称号である「三船の才」と呼ばれた源経信らしい歌だと感じます。なにより千年前もの昔から女子高生が最高と断言しているのがスゴい。
さて、嘘八百はこれぐらいにして、秋といえば、食欲の秋、芸術の秋、そして読書の秋と言いますね。日が沈むのが早く、夜が長い秋。静かに読書をして過ごすには最適な季節というわけです。というわけで、久しぶりに本日は読書感想でも。
今回の読書感想はこちらの小説、米澤穂信著「儚い羊たちの祝宴」です。書店で見かけ「味わえ絶対零度の恐怖をーラストの一行で世界が反転」という本の帯の煽り文句に釣られて購読しました。
本作は五つの短編で構成されています。以下ざっとしたストーリを紹介すると、
地方の名家で起きる惨劇を、使用人の少女の手記という形で語る『身内に不幸がありまして』富豪の家に使用人として住むことになった妾の娘と別館に幽閉された兄との奇妙な生活を語る『北の館の罪人』山奥の別荘の管理を任された使用人が歪な矜持を語る『山荘秘聞』名家の次代当主として育てられた娘とその忠実な使用人との絆を語る『玉野五十鈴の誉れ』そして、成金のお嬢様がお抱えの料理人に恐ろしいオーダーを持ちかける『儚い羊たちの祝宴』って感じの五編です。
上流階級のご令嬢、あるいは使用人(メイド)が上品な語り口で綴る五つの物語。それぞれの物語の最後に小さな驚きを秘めたミステリー短編として楽しめる一方で、この五つの短編を「章」として捉え、表題にもなっている『儚い羊たちの祝宴』を最終章と位置づけて読むと、それまでとはまた違った趣きが生じるという秀逸な構成になっています。全てを読み終え、本を閉じた際にこの作品のジャンルが「ミステリー小説」ではなく、「ホラー小説」だったのではないか?と読者に錯覚させるような仕組みが用意されており、深読みしようと思えばいくらでも深読みできる。一粒で二度、三度美味しい小説となっております。
なお、自分はこの作品について「ミステリー小説」とも「ホラー小説」とも思っておらず、作中作というか、『お嬢様たちが創りだした五つの物語』つまりはお嬢様たちの『同人誌』というスタンスの作品なのではないかと思っています。
各話のスタイルがバラバラで手記形式だったり、回顧形式だったり、日記形式だったりするのですが、これは作中で随所に言及される読書サークル「バベルの会」のお嬢様達が読書したり、その内容を語り合ったりするだけでは飽きたらず、各々が抱いていた夢想の内容を物語として書き上げたものであると考えると、しっくりくるんですよね。家名や社会的地位に縛られ、「お嬢様」らしくと、完璧な立ち振る舞いを演じざるをえない少女たち。清楚であれ、可憐であれと型に押し込められ汲々となっている彼女たちは慎み深い外面とは別に内心では残酷で嗜虐的でグロテスク物語を夢想していた。
高値の花とは身分が違いすぎて、ただ遠くから眺めることしかできないという、上流階級のお嬢様を指す言葉ですが、高山の岩間に咲く花は厳しく辛い環境で、それでも健気に咲くあだ花でもあるわけです。自由なんぞ皆無。人格さえも家の意思によって決められる。そんな苦しい立場の彼女達のささやかな反抗がこの五つの物語だとして読むと、個人的にはスゴく萌えます。ブヒ-。
というわけで、リアリティの無い浮世離れしたした五つの物語の後ろに妙にリアリティのあるお嬢様たちの息づかいを感じる不思議な作品、『儚い羊たちの祝宴』の感想でした。結局最後まで、帯の文句である「絶対零度」について良く分かりませんでしたが、とにかくお勧めしたい一品ですので、ぜひ秋の宵の口に一読してみてください。
2012-11-14 19:38
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とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。
by 職務経歴書の見本 (2013-03-07 14:37)