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2012-03-23 画を望むば我に乞ふべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし。ボクはキメ顔でそう言った。 [3次元@スナップ写真/日記]

本日は夜勤明けの寝ぼけ眼の中、東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館 日本美術の至宝」を観賞してきました。
アメリカのボストン美術館に収蔵している日本美術品約10万点の中から厳選された屏風絵や仏像、着物、刀などの92点が凱旋。その中には日本初公開の作品も多数含まれています。長年、アメリカまで行かなければ観賞することが叶わなかった「国宝級」の美術品。それらを国内で観賞できるまたとない機会とあって心が弾みます。お昼ご飯も食べずに上野駅を降りて博物館に直行。




東京は上野公園にある東京国立博物館。この敷地はかつて東叡山寛永寺の敷地でした。徳川三代目将軍家光が建立した寛永寺。徳川家菩提寺として役割の他にも、江戸の鬼門にあたり、長らく江戸を鎮護する存在でした。しかし、江戸時代の最後の年、慶応四年に新政府軍と徳川残存勢力彰義隊が衝突した通称「上野戦争」と呼ばれる戦いによって壊滅的被害にあいました。その後明治14年になってこの跡地に博物館が建てられました。これは本館の様子。



ところで、この上野戦争には当時最先端の武器、アームストロング砲が使用されましたが、これらの購入の為に莫大な戦費が必要で一部は江戸城内の美術品の売却によって賄われたと言われています。内政の混乱、そして外貨の獲得。また明治になると、世の中の価値観は西洋化。日本古来の美術品の暴落によって多くの美術品が海外に渡っていきました。一応書いておきますが、個人的には国宝級の日本美術品が海外のコレクションになったことについて否定はしません。というのも日本の古美術の価値は海外に渡って再評価されたようなもので、浮世絵や根付などはその主たるものです。またリスク面においても貴重な作品が国内だけにあるよりも分散していた方が好ましい。どんな経緯にせよ、日本の作品だからといって安易に返還を求めるような無粋な気持ちにはなりません。そんなわけで「離散」というよりも「旅立ち」したという表現が好ましい日本の美術品。その契機となった上野の地に再び帰郷する今回の企画はなかなか意味深です。ちなみに本日は生憎の雨。偶然ながら上野戦争が勃発した日も雨だったそうです。



さて、本題。今回のみどころはなんといっても、本邦初公開の「雲龍図」。今年が辰年ということもあって、主役の扱いになっています。計算された薄暗い照明の中に浮かび上がる全長10メートルの龍図は圧巻の一言。荒れ狂う波頭の間を抜ける肉感溢れる尾、暴風を引き裂くような巨大な鉤爪。おどろおどろしく黒く塗りつぶされた暗雲の中から顔を出す龍の表情。これまでの日本画の印象を吹き飛ばす迫力ある絵で鬼才曾我蕭白の魅力を如何なく発揮しています。

この作者、曾我蕭白は江戸中期の京画壇の末尾に名を残すも謎の多い絵師です。経歴がはっきりとせず、師匠や弟子の存在も不明。伝統的な漢画のような絵を描いたと思えば、「雲龍図」や「紙本著色郡仙図」のようなダイナミックかつエキセントリックともいえる絵も描く。当時から賛否両論の絵師だったようです。個人的に気に入ったのはこちらの「鷹図」購入したポストカードから撮った写真なので構図がずれてますが、実際の絵はめちゃめちゃカッコいいです。


当時人気を博していた絵師といえば日本画に写生を取り入れた円山応挙。国宝「雪松図屏風」のように写実風のリアルな絵が特徴。当時の寺院や商人はこぞって彼の絵を求めましたが、蕭白はブログタイトルにある台詞「画を望むば我に乞ふべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし」と言って応挙の絵を「絵図」と揶揄しています。写生による「在るがままに」が絵図ならば、蕭白は「想うがままに」描く「画」=「我」である。あくまで逸話のなので事実かわかりませんが、自信家で豪胆な性格が垣間見れます。まあ、写生といいつつ応挙も変わった絵を描いていたので一概にそう断言できるものではないのですが。龍門鯉魚図とかね。

曾我蕭白の他にも日本を代表する絵師が勢ぞろい。安土桃山時代から続く絵師のスーパエリート狩野永徳、そのライバル長谷川等伯、江戸時代のどら息子ながら天才絵師の尾形光琳、青物問屋の元若旦那、鬼才伊藤若冲など贅沢な布陣。奈良、平安時代の貴重な仏法図などもありそれらを眺めているだけで時間を忘れてしまいます。
また、絵だけではなく仏像、着物、刀なども素晴らしかった。会場で無料配布されている目録にコメントを書きながら観覧しました。平日ということもあってまったりとできましたが、これが休日となると急かされて大変。時間に余裕のある方は平日がお勧めです。

さて最後に特に気に入った作品を紹介。今後行かれる方の参考にしていただければ幸いです。

No.7,馬頭観音像・・・ナイスアフロ。
No.22,弥勒菩薩立像(快慶作)・・・なで肩が艶かしい。
No25,地蔵菩薩坐像(円慶作)・・・今にも動きそうなほどの傑作。錫杖のクオリティが高く「シャン」と鳴りそう。
No26,吉備大臣入唐絵巻・・・人物が漫画チックで愛らしい。
No29,三聖・蓮図・・・右側の一反のデザインが秀逸。
No31,枇杷に栗鼠図・・・かわゆす(思わずポストカードを購入)
No36,白衣観音図・・・無駄な線を廃したイラストのような作品。青色が効果的で目を瞠る。

No44,竜虎図屏風(長谷川等伯)・・・妙におっさんくさいトラの表情が好き。
No50,海棠に尾長図(狩野探幽)・・・嫌味がなく上品。
No56,鸚鵡図(伊藤若冲)・・・この人はホント鳥類が好きらしく鳥愛に満ちている。シンメトリーな背景がエキゾチック。こちらもポストカードから。

No71~No92は刀剣と染織というすごい組み合わせ。
中でも長船景元の太刀と梨地家紋散糸巻太刀が気に入りました。
染織については、No85,黒縮緬地桜楓模様の小袖!明治時代の作品ですが、これは凄い。メタリックグリーン、メタリックレッドのような楓が黒字の縮緬にホログラムのような効果を出しており度肝を抜かれました。

会期は3月20日から6月10日まで。大人一人1500円也。今回パンフレット代わりこの雑誌を買いました。ボストン美術館の紹介から日本美術の価値を再発見した外国人たち、そして今回展示されている作品の紹介や、国内の名品の紹介など、幅広く、事前勉強にはもってこい。芸術品は直感的に楽しむだけではなく、その背景を知るともっと楽しい。

時空旅人 Vol.6 「幻の国宝~ボストン美術館に見る日本~」 2012年 04月号 [雑誌]

時空旅人 Vol.6 「幻の国宝~ボストン美術館に見る日本~」 2012年 04月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 三栄書房
  • 発売日: 2012/02/17
  • メディア: 雑誌



ライバル日本美術史

ライバル日本美術史

  • 作者: 室伏 哲郎
  • 出版社/メーカー: 創元社
  • 発売日: 2008/02
  • メディア: 単行本


刀剣がらみの予備知識はこちらがお勧め。なぜかコンビニで売っていた。

図解 武将・剣豪と日本刀

図解 武将・剣豪と日本刀

  • 作者: 日本武具研究会
  • 出版社/メーカー: 笠倉出版社
  • 発売日: 2011/08
  • メディア: 単行本


桃山期から江戸末期までの着物の文様やその流行についてはこちらがお勧め。
江戸モードの誕生 文様の流行とスター絵師 (角川選書)

江戸モードの誕生 文様の流行とスター絵師 (角川選書)

  • 作者: 丸山 伸彦
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 単行本




おまけ。
上野といえば桜。しかしまだ開花の兆しはありません。その中で一本だけ狂い咲きしていました。


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