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2012-01-09 読書感想。琥珀の眼の兎 [1次元@読書感想]

本日は今年最初に読了したエドマンド・ドゥ・ヴァール作『琥珀の眼の兎』の読書感想でもしようかと。

琥珀の眼の兎

琥珀の眼の兎

  • 作者: エドマンド・ドゥ・ヴァール
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 単行本


この作品、ジャンルとしてはノンフィクションになります。
普段読む本といえばミステリー小説が多い自分にとって、ノンフィクション作品、しかも海外のハードカーバーモノを購入するのは本当に久しぶり。嫁から貰った図書券が1000円分あったとはいえ、年初のお金のない時期に2300円というお値段は質量的にも財布的にもズシリときました。
それでも読みたかった理由は本書のキーワードである『根付』に惹かれたため。
江戸文化好きな自分としては、その言葉が琴線に触れたわけですよ。海外から見た日本文化の立ち位置がどういったものなのか。そんなところが少しでも分かればと手にしたのですが、本の内容は色々な意味で予想を裏切る内容でした。

非常に多面的な要素がある本でしたが、ざっと内容を紹介すると、

ある日、ユダヤ系イギリス人の著者、エドマンドは東京に住む大叔父の死去によって、264点の美術品を相続する。硝子ケースに収まっていたそれは江戸時代末期に海外に渡っていた日本の「根付」だった。
小さくも精緻で、しかも愛らしい「根付」はジャポニズムブームに沸くヨーロッパでは美術品としてコレクションされるようになっていた。
コレクションを相続した著者は根付の遍歴に興味を覚える。海外に旅立った根付がどのような旅をして再び東京に戻ってきたのか。
19世紀末のフランス、20世紀初頭のオーストリア帝国、そして戦後の日本。
その足跡を辿ると、それは所有者である著者の一族『フォテルッシ家』の約100年の家史と重なり、激動にまみれた近代史における一族の興隆と没落の跡を辿る旅でもあった。

・・・こんな感じです。膨大な一族間の書簡、当時の世相、文化を入念に調べ上げ、執念にも似た現地取材を重ねて完成したこの作品。陶芸家でもある著者の語る本当の「日本美術」についての言及や印象派時代の美術に対する見解などを語りつつ、あくまで主題はかつてロスチャイルドに比肩した著者の一族、大富豪『フォテルッシ家』の物語り。そして定住する国を持たなかったユダヤ民族のアイデンティティーを再確認する話。

代々コレクションを引き継いだ著者の先祖はそれぞれの時代、それぞれの国でその土地の土になります。しかし一族としては定住しない。流転、つまりはまた別の土地へと移っていきます。根付のコレクションもまた同じ場所に留まることはありません。一度東京に戻ってきたものの、終盤で著者の住むイギリスへと向かいます。これらの流れにについて著者は言います「そういう物は、昔からずっと、運ばれ、売られ、壊され、盗まれ、取り戻され、失われてきた。~中略~重要なのはそうい物にまつわる物語りをどう語るかなのだ」
移り住む国々で繁栄し、奪われ、貢献し迫害される。そんな一族の末裔である著者のその言葉にただただ圧倒されました。ドキュメンタリーのようでいて、回顧録のようであり、伝記のようでもあるこの作品。多少読みづらいところはありますが、良作であることは間違いないと思いますので、興味のある方は一読されてみてはいかがでしょうか。





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